2017年11月23日木曜日

The Plant House Cafeからミャンマーの未来を考えた

前回の投稿にも書きましたが、サンチャウンにブックカフェ The Plant House Cafeが開店しました。日本でもブックカフェやブックホテルなどの、選書家が選んだ本が並ぶ空間で、日常から離れた環境の中、ゆったりとした時間を過ごすのを目的とした施設は増えてきていますが、そうしたコンセプトでこのようなブックカフェがミャンマーにできたのは初めてだと思います。


店名と店内に本棚、植物の小鉢が置いていることから、このカフェのコンセプトは植物に囲まれた空間で癒されながら、読書ができる時間と空間を提供することだと推測されます。
完成度や洗練度という点からは、その試みが必ずしも成功しているとは言い難いのですが、ここではそれは問題にしません。
なので、「ミャンマーにこんなおしゃれな空間ができた」とか、「こんな美味しいものが食べれる」などの情報を期待されている方は、ここから先を読み進めるのは、お勧めしません。



ここ2、3年でヤンゴンにも洗練されたインテリアのお店は増えてきましたが、ほとんどの場合、以下のカテゴリーに分類されます。
1) 外国資本による店
2) ミャンマーの大資本が外国人のデザイナーに設計させた店
3) 海外から帰国した富裕層のミャンマー人の若者が、親の資本力をバックに作ったお店

つまり、資本も海外での留学経験もない普通のミャンマー人は、そうした動向の蚊帳の外に置かれていました。
そんな状況の中、資本も経験も親の資金的なバックアップもなさそうなミャンマー人(たぶん)が、こうしたお店を立ち上げたのは、かなり画期的です。

意図したコンセプトを高い完成度で実現させるだけの、資本力とセンスは不足していますが、自分はこういう空間を作りたいんだという熱量が、棚作りからも伝わってきます。


 村上春樹『1973年のピンボール』ミャンマー語訳

村上春樹『海辺のカフカ』英訳
ミャンマーでは洋書は高いので貴重本としてビニール・コーティングされています

ミャンマー語訳も出ている村上春樹『ノルウェーの森』英訳

選書に村上春樹の著作が目立つことから、オーナーはミャンマーでは珍しい村上主義者であることが見て取れます。

ビジネス書も展示販売しています

ベンジャミン・グラハムの株式投資に関する古典的名著『賢明なる投資家』
ローバート・キヨサキみたいな射幸心丸出しのあけすけな自己啓発本を置いてないあたりにも、オーナーの矜持が伝わってきます


黙って本を読むカップル

客層は、本好きの若いミャンマー人が主体のようです。従来のミャンマーのローカル・カフェだと、本を読んでいても、隣の客が大声で携帯で話したり、グループで騒ぎまくったりすることが多く、読書に集中できません。現地の価格水準に則したローカル・カフェで、ゆっくり読書をしたいという隠れた需要が、ミャンマーにあったのかもしれません。
ミャンマーには公共の図書館も存在しないため、外で本が読める公共スペースが非常に限られています。今までは、上の1)~3)にあげたタイプのこちらの所得水準から考えると値段が高めの外資系、もしくは海外帰り富裕層のミャンマー人のカフェしか選択肢がなかったのが実情です。
そうした中で、植物を配した環境に癒されながら、ゆっくりと読書ができる空間を作るというコンセプトで、大資本の力を借りずに開店まで漕ぎ着けたのは、ある意味快挙です。

本棚には、最近ミャンマー語訳に翻訳されたガルシア・マルケスの『百年の孤独』も入れるべきだろうとか、アート関係の本が皆無とか、このコンセプトだと雑誌『KINFOLK』置くべきじゃないか、というつっこみもないわけではありませんが、それらは些細なことで、大資本のバックを持たないミャンマー人が、個人で文化的な空間を立ち上げたという挑戦を讃えるべきでしょう。富裕層の子女を除けば、そうしたことを実現したミャンマー人は、今まで皆無だったわけですから(YOMAの三男が作ったTS1なんか完全にパパマネーだったわけですし)。

ミャンマー語訳『百年の孤独』


床に敷きつめられた人工芝は、植物に囲まれた空間をイメージしたのでしょうが、かえってケミカルな印象を与えてしまっていて、ちょっと残念です。
インテリアの洗練度や、選書のセンスも、ビジネスを継続し、利益を計上しながら、海外の同種のコンセプトの店を見る機会を得て、これから向上して行くことを期待します。

Facebookページの「いいね」数を見ると開店してから約一ヶ月で、約4200とかなり好調です。
ミャンマーの現代美術のような文化活動は、在ミャンマー外国人(ほぼ欧米人)のイニシアチブで運営されています。外国人主体の美術運動であるため、ローカルの人たちにとってリアリティのある文化とは感じられません。ローカル運営のギャラリーもそれなりにありますが、モネみたいな画法の100年以上前の印象派絵画が主体で、いまさら感が非常に強く、現代美術のマーケットの中でしのぎを削る世界最前線のギャラリストに伍していく姿勢は見受けられません。
そうした貧弱な文化環境の中で、ローカル目線・ローカル価格で現在進行形の文化やユースカルチャーを支援する施設は、これまであまり存在しなかったため、これから成長が見込める分野のひとつかもしれません。

そんなわけで、特におしゃれでも、洗練されいるわけでも、美味しいものがあるわけでもありませんが、変わりゆくミャンマーを自分の目で確かめたい、あるいはミャンマーで芽吹きだした草の根的な文化運動をサポートしたいという気持ちがあれば、このお店へ行ってみてはいかがでしょうか。

The Plant House Cafe
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