2018年3月31日土曜日

【悲報】僕、ミャンマーのネットで炎上する〜ミャンマーの市場について考えた【長文】

今週、半年前からサンプルの作成を重ねていた、ウェストをシェープしたドレスの完成形がようやくでき上がりました。

そこでFBグループ、Yangon Connectionに、このドレスの販売を始めたことを告知しました。Yangon Connectionは、現時点で12万2千人の参加者を擁する在緬外国人にとって最大の情報交換の場です。
すると意外なことに、ターゲットとは想定していなかった(もともとYangon Connectionは、在緬外国人の情報交換のために作られたFBグループです)ミャンマー人女性から、批判的な意見が相次ぎました。

曰く、「ぜんぜん良くない!」、「もっと勉強して!」、「レベルアップが必要!」
これは、同一人物が三つの投稿を立て続けにしています。

続いて、もう一人のミャンマー人女性からの投稿。
「このドレスは良くない。チャリティーならいざ知らず、この値段で買う価値はない。場末のローカル・テーラーでも、もっと縫製が良い。フィッティングも良くないし、生地も良くない。この値段ならもっと良いものが買えるはず!」

ネット・ジャーゴンで言うところの火病ってると言って良い状態で批判しています。
友人のウェイヤン君が私よりも先に、投稿が炎上しているのに気がついて(私はその時、近所のWin Starでビール飲んでたので)、援護射撃してくれていました。
ご興味があればこちらのリンクでYangon Connectionの実際の投稿をご覧ください。

ご参考のため、この投稿に掲載した写真をアップします。







これらの意見に対する私の回答は、「教養がないというのは度し難いですね。私が説明した通り、このドレスは1960年代後半から70年代前半のスタイルを意識しています。いわば、イヴ・サンローランやケンゾーといった偉大な先人の作品に対するオマージュです。そうした、ファッションの歴史に対する歴史観も敬意も欠いた人たちを、お客様として想定していないし、眼中にありません」というものでは勿論ありません。そんなことは、毛ほども、露ほども、いや一ナノミクロンも思ってませんから。

正式な回答は、ちょっと長いけど(本当の記述はもっと長い)、「やあ、皆さんご意見ありがとうございます!僕は基本的に、どの作品にも批評は開かれているべきだと思ってます。だから、皆さんの意見は尊重します。でも、余計なことかもしれないけど、ちょっとこのドレスのバックグラウンドについて説明させてください。このドレスは、イヴ・サンローランやケンゾーといった偉大な先人の偉績に基づいて作られています。だから、あなたがそうしたファッション界の偉人をリスペクトしてくれていたら嬉しいし、僕は自分の仕事がそうした偉大な先人に連なるものであれば幸せです。ともあれ、実際にお店に来て、実物を見て判断してくれれば、もっと嬉しいです」 というものです。

ちなみに私がイメージしたのは、サンローランのこんな感じのドレスです。




でも、なぜ彼女たちは火病ってるといった状態にまでなって、ここまで激烈な言葉を書き連ねたのでしょう?
そのことが気になったので、分析してみました。

(1) シンプルでシックなものに対する価値を認めない
ミャンマーのファッションは盛ってなんぼというところがあります。引き算の美学みたいな感性は未だ存在しません。上にあげたような、モノトーンの生地で微妙なシェープやプリーツで、理想とするシルエットを形作るタイプのドレスは、どこが良いのか理解し難い。フィッティングも良くないと書いている人もいましたが、これはロンジーとかエインジーといった民族衣装の体にぴったりした作りを基準にしていて、ある種のデザインのドレスに求められる自然なドレープ感を評価する感性が存在しないからでしょう。

(2) 手工業的な生産方式で作られた物に対する評価が低い
今回炎上したのは、製作現場の写真を載せたのが大きいのではないかと分析しています。先進諸国の人間からすれば、裁断を機械化して、流れ作業的に大人数の縫製工が機械的に縫い上げる工業製品のようにして作られた服(代表的なのがファースト・ファッション)よりも、すべての工程を人力でまかなう、家内製産業的な生産方式の方が味とホームメード感があって楽しいという感覚があります。ミャンマーの婦人服では、既製服よりもオーダーメイドの方が主流なので、ミャンマー人にはその種のありがたみはまったく感じません。むしろ、H&MやZARAといった、先進国ならどこでも手に入るファースト・ファッション・ブランドが、ありがたがられているのが現状です。

(3) ファッションの歴史に対して、興味もしくは知識が無い
1962年から2011年までミャンマーは鎖国していたので、一部の富裕層を除き、ファッションのトレンドを含む海外の情報にほとんど触れていません。そのため、ファッションやポップミュージックなどの文化・風俗的な現象に対する歴史観を多くの人は持っていません。こうした歴史観なしでは、ファッションなどのサブカルチャー的な商品の背後にあるコンテキスト(文脈)を理解できません。文化には、過去の文化遺産の継承と、新たな価値観の提示という二つの側面があります。「温故知新」とか「新しい酒を古い革袋に入れる」とか「ルネッサンス」とかと表現されるように、常に過去を参照しつつ、新たな美意識や価値観を創造していくのが、アートとか音楽とか文学とかファッションといった文化現象の定理です。ミャンマーは長らく国を閉じていたこともあり、ファッションを含むポップカルチャーの重層性は多くの人に意識されませんし、興味がない人が大半です。こうした環境では、過去の文化遺産のオマージュや引用といった手法は通用しません。 

(4) ミャンマーの値付けの手法が独特
値段が高いといのも気に障ったようです。
そこで、いまエシカルさと透明性で、高い評価を得ているアメリカのブランドEverlaneと比較してみました。 Everlaneは、委託工場や製造コストなどの商品生産に関わる情報を開示して、その姿勢に共感した消費者に買ってもらうというビジネスモデルで成功したアメリカのブランドです。最近では、ユニクロがこの手法に影響を受けています。



上のWebでの公開資料を元に計算してみます。

Everlane:
生地の値段/店頭価格:10.9%
縫製費/店頭価格:17.3%

Yangon Calling:
生地の値段/店頭価格:23%
縫製費/店頭価格:16.6%

いや縫製費の割合は0.7%しか変わらないし、生地の値段に関しては私の方が二倍以上高い割合、つまり商品価格の割に高い生地を使ってます。
少なくとも国際標準では、ミャンマー人が言うように「生地が良くない」とは言えません。これは物の価値がわかってないか、ミャンマーの根付け方法があまりに国際標準から外れているのかのどちらかでしょう。
ミャンマーには、デザインに対価を払うという価値観が希薄なので、おそらく後者ではないかと推測します。

論理立てて説明しようとすると記述がずいぶん長くなりました。
では、ミャンマー人はこうした商品を絶対に買わないのかというと、必ずしもそうでもないことを次に説明します。

私はいつも店頭にいるわけではないので、知らないケースもあるかもしれませんが、自分の知る限り、私の企画した商品を買ってくれたミャンマー人は今までで三人です。
一人はイギリス帰りで配偶者もイギリス人のご婦人、もう一人は日本に留学歴のある韓国人の配偶者を持つご婦人、最後はシンガポールの美大出て、ミャンマーでデザイナーをやっている女の子です。
今、このデザイナーやっている女の子と協業できないかと話し合っていますが、私のブランドのブラック・ドレスを見せたら、すごくはしゃいで大喜びして買ってくれました。その時も写真撮らせてもらいましたが、FBのオフ写真でも着ている頻度が高いので、かなり気に入ってもらえたようです。

そんなわけで、私見ではミャンマーのマーケットは以下の四つに大別できます。

1. ミャンマーのマジョリティのマーケット:推定約90%
2. ミャンマーの富裕層のマーケット:推定約8%
3. ミャンマーの富裕層のうち海外での滞在経験を持つ人のマーケット:推定約2%
4. ミャンマーに住む外国人のマーケット:推定約0.1%

マーケット毎に商品の価格帯やテイストを変えて、ターゲティングした層にリーチするのがマーケティングの原則ですが、ミャンマーの場合、メディアもそれほど市場毎に細分化していないので、3、4の層に向けてメッセージを送ったところ、1の層からリアクションがあったというのが今回のケースだと思います。

最後に、私のブランドを着たミャンマー人デザイナーの女の子の写真を見て癒されてください。明日、4月1日(日)はPrincess Tailoring Shopに日本語通訳ボランティアの女性に入ってもらえますので、その際にでも実際の商品を手に取っていただけたら嬉しいです。





ハァハァ、ちゃんと説明しようとすると、思ったよりずいぶん長くなった
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