2017年4月13日木曜日

チェンマイの本屋でミャンマーの書籍文化を考えた〜新刊書編

ミャンマーの水祭り期間をチェンマイで過ごしています。こちらも上座部仏教の国なので、同じ時期に水祭りを開催していますが、ミャンマーに比べれば穏やかなものです。
ミャンマーみたいに問答無用でホースやバケツで頭から水を掛けられることはありません。参加したい人同士で、お互い水を掛け合っていることがほとんどです。

さて、いつもと違った場所を訪れると、必ず私が私が行く場所は本屋です。新刊書を扱う本屋も古本屋にも行きます。新刊書店で平積みしているコーナーを見れば、その場所に住む人達が何に関心を持っているのかが推測できます。古本屋に置いている本は、その場所の文化度やセンスを推し量る指標になります。
そんなわけで、チェンマイでもいくつかの本屋に行ってきました。

まずは新刊書店のBOOKSMITHへ。チェンマイの代官山や渋谷のキャット・ストリートに似たお洒落エリアのニマンヘミンにあります。場所柄アート系の本が充実していました。
この手の書店には、必ず置いているKINFOLKMONOCLEといったライフスタイル・マガジンも当然置いています。ちなみにヤンゴン国際空港のターミナル1の紀伊国屋書店にKINFOLKが置いています。おそらくミャンマーで唯一KINFOLKを売っている場所でしょう。




当然、村上春樹のタイ語訳もありました。新作を除く著作のほぼ全部が揃っています。



村上春樹以外の日本の作家では、伊坂幸太郎の翻訳本が目立っていました。


タイの日本のガイドブックは、近年どんどんマニアックになってきています。東京クラフトビールなる、東京のクラフトビールの酒造を紹介している本がありました。


タイでは、日本のサードウェーブ・コーヒーの紹介に特化したガイドブックも出版されています。藍染めにこだわったクラフト系のジーンズ・ショップもタイの街中でよく見かけるようになりました。

クラフト系ジーンズとは、私がいま作った造語ですが、こんなタイプのジーンズブランドを指します。
自分のためのデニムを。5人のプロフェッショナルが手がけるアップル アンド アティチュード

http://www.houyhnhnm.jp/news/57113/

タイにもサードウェーブウェーブ系男子が出現してきているのかもしれません。
サードウェーブ系男子についてご存知ない方は、ネーミングした辛酸なめこの下記のインタビューをお読みください。
清澄白河のブルーボトルに行ったら、行列に並びながら、コーヒーのうんちくを傾ける小洒落た恰好をしている男性たちがあまりに多くて驚きました。そこで、こうしたオシャレで、一杯一杯丁寧に入れたコーヒーが好きな男性やそうした店で働く店員さんのことを『サードウェーブ系男子』と名付けました
クラフト系やサードウェーブといったムーブメントの基底には、先進国の消費者の脱消費・脱大量生産的な時代の気分があります。
ムーブメントの背景を説明した記事を見つけたので、以下に紹介します。

https://gqjapan.jp/culture/column/20160127/third-wave-guys

現在、世界中で同時多発的に興りつつある、消費意識の変化について興味があれば、『ヒップな生活革命 (ideaink 〈アイデアインク〉)』と『物欲なき世界』をお読みください。2冊とも現在進行形の消費意識の変化を丁寧にレポートした良書です。



ポートランドや日本のサードウェーブコーヒーやクラフトビールを紹介する書籍が、タイで出版されるのは、タイも世界の先進国で興りつつある、消費意識の変化と共振している証左でしょう。

下の写真は、バンコクのアート系の本やライフスタイル系のお洒落な雑誌だけを揃えたセレクトショップ的な書店の棚ですが、 KINFOLKMONOCLEと共に、日本のサードウェーブ系男子御用達の雑誌『POPEYE』が置いていました。
おそらく若いタイ人が日本人に期待しているのは、 この種の格好良さだと思いますが、この種の格好良さや美意識を体現した若い日本人男性を東南アジアでほとんど見かけることがないのは残念です。代官山や恵比寿のカフェばかりにたむろしてないで、東南アジアにも来て欲しいものです。



ミャンマーでは、サードウェーブ系コーヒーやクラフトビールのムーブメントは今のところ起こっていません。FBページのYangon Connectionで外国人のミャンマー在住者が「誰かここで旨いクラフトビール飲める場所知らない?」と聞いていましたが、まともな回答がありませんでした。「ミャンマービール」と答えていたミャンマー人もいたので、クラフトビールの定義もあまり知られていないようです。
そもそも、ミャンマーには脱大量生産的な時代の気分や感性 ー 大企業が工場で生産するマスプロダクトよりも、個人や小規模生産者が提供するクラフト的なこだわりのある商品やサービスを高く評価する ー は訪れていません。
ミャンマーの街場の新刊書店に、KINFOLKMONOCLEが並ぶような文化・生活環境の変化があれば、サードウェーブコーヒーやクラフトビールの店も現れることになるでしょう。いつになるかは分かりませんが。
ちなみにチェンマイのニマンヘミンは、サードウェーブコーヒーのカフェが相当な密度で林立しているのですが、これはこれで異様です。

本屋で新刊書を眺めていると、そこに住む人達の気分や関心領域が見て取れて楽しいです。
ミャンマーの新刊書店では、ローバート・キヨサキや『七つの習慣』のような自己啓発本が目立つので、経済的な栄達への関心が高いことが伺えます。
文芸書の翻訳は、ディケンズとかツルゲーネフのような古典がぽつぽつある程度で、現代文学についてはかなり手薄です。
また、ミャンマーの書店では、棚作りに軸というかセレクションに一貫性が感じられません。きちんと本の内容を把握して、魅力的な棚作りが出来る書店員が育つ文化的な環境に早くなればと願います。
それ以前に読むべき価値のある本が、しっかり翻訳されて、出版されている必要がありますが、出版に関連する版権や著作権の法が整備されていないのも大きな問題です。村上春樹のミャンマー語訳を見かけますが、版権等は正式に取得していないはずです。また、セックスシーン等の物議を醸しそうな部分は削除されているので、読んでも内容がよく分からないこともあるようです。
悲観的ことばかり書きましたが、最近アメリカから帰国したミャンマー人が同人文芸誌を作っているので、少しづつ変化の兆しは現れているのかもしれません。

チェンマイの古本屋についても、書こうと思いましたが長くなったので、次回の投稿にします。

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