2020年1月2日木曜日

(2) ミャンマー人の行動と気質を理解するための統一理論について考えた

前編「(1) ミャンマー人の行動と気質を理解するための統一理論について考えた」の続きです。

これまで、ミャンマー人の行動様式を、時間軸という概念を用いて説明してきましたが、一昨日あたりに、もっと上手く説明できる方法があるのではないかと思いつきました。
経済や会計の概念である、フローとストックを援用すれば、より包括的かつ明示的な説明がつきそうです。

Wikipediaでは、「フロー(Flow)とは、一定期間内に流れた量をいい、ストック(Stock)とは、ある一時点において貯蔵されている量をいう」と説明されています。

Dynamic Stock and flow diagram

上図では、流れたフロー(当期利益)がダム状のストック(自己資本)として貯まり、それがまたフロー(消費・投資)として、 ダムから流れ出します。

会計の分野では、複式簿記において、期間の損益状況をあらわす損益計算書P/L(収益・費用)がフロー、特定時点での財産状況をあらわす貸借対照表B/S(資産・負債・資本)がストックにあたります。

ミャンマーのローカル企業の会計では、複式簿記を採用していないため、フロー(P/L)は見ていますが、ストック(B/S)は見ていないケースが多いです。
つまりミャンマーには、フローの概念はあるが、ストックの概念はあまり一般的ではないとも考えられます。複式簿記を採用しないのは、単なる会計上の習慣ではなく、ミャンマー人の世界観に根差した、民族的な深層意識に由来する選択である可能性があります。

これまで、ミャンマーでは、真面目さと勤勉さ、善良さと誠実さは別の概念であることを論じてきましたが、この先、フローとストックの概念を導入して、説明をしてみます。
<フロー>真面目、善良 <-- その場において観察される資質
<ストック> 勤勉、誠実 <-- フローが蓄積した結果として事後的に認められる資質
として捉えてみると、ミャンマーはフローの流出量は多いが、それがストックとして蓄積されていないと言えます。
上図のイメージで言うと、水量(フロー)は多いが、ダムの貯水できる容量が非常に小さいため、十分なストックが形成されない。

真面目さと勤勉さ、善良さと誠実さという人間的な資質を説明するに限らず、ミャンマーで起こっている事象全般をこのフロー・ストックの概念を適用して考えてみましょう。
  • 植民地支配から独立して以来、発電施設、上下水道、都市計画などのインフラを自力で立ち上げたことがほとんどない --> 社会資本(ストック)の概念がないから
  • 公営の充実した図書館や美術館がない --> 文化資本(ストック)の概念がないから
  • 安易に他社のデザインや商標やソフトウェアのコピー・模倣をする --> 無形資産(ストック)の概念がないから
  • 辞職する際に業務の引継ぎをしない --> 事業の継続性(ストック)の概念がないから
おお、全部説明できそうだ。

正確を期せば、2006年に旧首都ヤンゴンに代わる首都ネピドーが建設されていますが、あの都市は政府庁舎が点在するだけで、公共交通・商業施設と居住区のバランスと利便性、娯楽や文化施設などの都市としての魅力を考慮して建設されていないため、ここでは除外します。
1961年に発表された都市論のバイブルと呼ばれる、ジェイン ジェイコブズ 著『アメリカ大都市の死と生』では、都市の様々な機能や用途 ー 居住区・オフィス地区・商業施設・公共の文化施設など ー が相互に絡み合い、多様な生態系を形成することにより、活気や魅力が生まれ、イノベーションが発生し、あたかも有機体のように都市が成長・発展するプロセスが活写されています。
都市を建設するにあたっては、成長・発展の萌芽となる、複合性や多様性をいかに設計するかが、現在の都市計画においては重要な要素となっています。
1960年に遷都されたブラジルの首都ブラジリアは、建設にあったて、そうした都市の発展の条件を考慮していなかったため、自然発生的な成長・発展が果たせなかった都市の代表的なケースとしてよく挙げられます。
ネビドー同様、巨大な建造物と広大な道路が広がる整然とした巨大な計画都市ですが、市内の移動は自動車による移動を前提にしているために、実際の市民生活を送るには不便なことや、直線的な道路が広く長く伸びる設計であるため、コミュニティが生成する区画(ブロック)や路地が存在せず、都市としての自然な繁栄を遂げることができませんでした。イノベーションの発生には、クリエイティブな人材の重層的・複合的なコミュニティの存在が不可欠とされています。このため、現代の先進的な都市作りでは、徒歩や自転車で移動が可能な、利便性が高く緊密なコミュニティ生成の場を作ることが重要な課題となっています。
ブラジリア建設から46年後に建設されたネピドーは、ブラジリア同様に都市の発展プロセスに対してこうした洞察を欠いているのは否めません。


東南アジア人と東北アジア人の気質の違いは、イソップ童話の「アリとキリギリス」寓話によく喩えられますが、これにもフローとストックの概念が適用できます。
  • アリ(東北アジア人) --> 食べ物(フロー)の途絶える冬がある -->食べ物(フロー)がある夏の間に食料を貯蔵する --> ストックの概念が育ちやすい
  • キリギリス(東南アジア人) --> 食べ物(フロー)の途絶える冬がない -->常に葉っぱが茂っている(フローが豊富)ため、食料を貯蔵する必要がない --> ストックの概念が育ちにくい
ミャンマーは、旅行者には概ね好印象なのですが、ここで実際にビジネスを営んでいる外国人にはけして評判が良いとは言えません。
これは通りすがりの旅行者が体験するのは、フロー(真面目さ、善良さ)であるのに対し、実際にこの地に足を付けて事業を営むのにあたっては、事業者は被雇用者にストック(勤勉さ、誠実さ)を求めることに起因します。
ミャンマーに進出した外資系企業の成功例がいまだに少ないのは、視察時にフローの部分だけを見て、投資判断をすることも大きな理由の一つではないでしょうか。
あるいは、自国のストック(上図では、ダムの貯水量)と同様のキャパシティ(ダムの容量)がミャンマーにもあるという、誤った前提で投資判断をしている可能性もあります。

いずれにせよ、これからミャンマーの様々な事象を読み解くにあたって、補助線としてフローとストックの概念を用いるのは、 正確なミャンマー像を把握するのに有用な試みではないかと個人的には考えます。

<追記:2020年1月3日>
本稿を書き上げた後、フローとストックの概念で説明できる代表的・典型的なケースをさらに思いついたので、ここに追記します。
一つ目は、ミャンマーに投資する投資家や、進出する外資系企業の成功例が少ない理由です。
株式投資に喩えると、彼らは、 フロー(損益計算書P/L)だけを見て、ストック(貸借対照表B/S)を見ずに、投資を決めていたケースが多いのではないかと推測します。
もう一つは、11世紀頃に建造された歴史的な価値のあるパゴダに、コンクリートやモルタルの現代の素材で補修したり、新たに建て増ししたりするケースです。
これは、迸る信仰心や、より良き来世への熱望といった個々人のフローが大量に流れ出した結果、先人の遺した遺蹟や文化・歴史的な価値のある建造物といったストックが押し流されている状態であるとも説明できます。

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