2017年2月8日水曜日

バンコクでミャンマーと日本について考えた

ビザの滞在期限が近かったので、例によってバンコクへ行ってきました。
ミャンマーでの滞在上限期間(70日)が近づくと、ほとんどの場合、渡航費が安く、ヤンゴンから最も近いバンコクへ行っています。
多くの在緬外国人にとって、バンコクはタフなミャンマーの生活から離れて、一時的な息抜きをする場所でもあります。食べ物の選択肢は多いし、文化施設や商業施設も充実してますから。

今回のバンコク滞在では、いろいろと考えさせられることがあったので、それについて書きます。
日本人の間で、タイの第一人者と言われていると聞いた方にお会いしたのですが、現状についてお話しされたことがとても印象に残りました。
この方の具体的な職種は明かせませんが、在泰日本人の増加に伴い同業者が多くなったため、タイの日本人マーケットが非常に競争的になり、以前のように仕事の依頼が来なくなったということです。また、ブログやFB等のSNSなどの普及に伴い、一般的な情報なら無料で容易に入手できるようになったことの影響も大きいようです。
「もう自分はタイの中で古い人間になってしまった」と自嘲気味にお話しされていました。
この方のようにタイ語が堪能で、タイ人から現地情報をダイレクトに入手できることは、大きな強みであるはずですが、日本人マーケットを対象とした同業間の競争の激化と、ネットの普及による無料情報の氾濫で同じやり方では、このまま同じ職種を続けることが困難になってきているようです。

タイ人の日本や日本人に対するスタンスも同様に変わったと聞きました。
以前は、日本人であることが日本の情報の発信者としての強みとなっていたそうですが、近年は状況が変わってきています。日本人がタイに対してそうであるように、タイ側も一般的な情報ならネットや書籍で入手できるため、個々のタイ人の嗜好や興味に一致したレアで、まだあまり流通していない情報でないと関心を持ってもらえないとのことです。過去に日本がタイに対して持っていた情報の優位性や非対称性が、ほぼなくなったようです。
なるほどなぁと納得しました。
個人的にも2年程前からタイに渡航する場合は、スカイスキャナーで最安値の便を探して、自分が泊りたい場所に近いコンドミニアムをAorbnbで検索して宿泊しています。現地についたら、フリーペーパーのフリコピを入手して、どこで食べるかを決めています。多くの現地情報も簡単にフリーペーパーやFBページで入手できます。場所にもよりますが、少なくともバンコクでは。

ネットを利用して提供されるサービスの充実と、無料情報の流通という要因も大きいですが、訪泰する旅行者の質も変わってきていることも関係しています。
バンコクはいまや大都会なので、旅行者の期待するものが、他の先進国の都会へ旅行する場合と変わらないことが多いはずです。ショッピング、グルメ、同時代の現地文化 ー アート、音楽、ファッションなどです。
そういった同時代的な情報は、古くから現地に住んでいるから詳しくなるタイプのものではない上、たいていの場合加齢と共に無関心になりがちなので、自分の持っている情報がどんどん後から来た人間より古くなって、陳腐化していくわけですね。

実際、バンコクへ行く度に感じるのは、東京なんかよりよっぽど国際都市だなということです。公共交通の高架電車BTSに乗ると3割くらいは外国人だし、街中で英語が通じる割合も東京とは比較になりません。
海外の都市文化が流入するスピードも、おそらく東京と大差がありません。
中間層が少ない分マーケット・サイズは小さいですが、旅行者と居住者の外国人の数が多いことで、海外の大都市との連動性は、ほぼ相殺されているような気がします。むしろ、外国人居住者の割合が多い分、東京よりバンコクの方が他の先進国の大都市と連動した同時代的なスピード感が早いかもしれません。
街を歩いていても、若者のファッションに対する情熱は、東京よりバンコクの方が強く感じます。日本ブランドの商品に限っても、ユニクロや無印商品から、コム・デ・ギャルソン、ヨウジ・ヤマモト、SACAIまで、バンコクで買えます。多くの場合、東京ほど店舗は大きくないですが。日本では見たことがないヨーロッパやアメリカのハイブランドも、バンコクの高級モールで見かけます。商業施設の規模では、日本の大都市以上のレベルです。


バンコクのコム・デ・ギャルソンのショップ

私が日本では見たことがない STUDIO21 という宝飾品ブランド

そうした海外のブランドに刺戟を受けて、立ち上げられた新進ブランドも多いようです。アパレル不況とファースト・ファッションの台頭で、ファッション産業に無関心な若者が増えている日本と対照的です。

海外からどんどん情報や商品がバンコクに流入してくるため、情報感度や消費特性が、他の先進国の大都市と変わらなくなってきています。一部の高感度層に限るのかもしれませんが、その層をターゲットとした施設が複数存在します。
最近日本にもとみに増えた、ブルックリンやポートランドのカフェを模した、サードウェーブ系のカフェもバンコクでよく見かけるようになりました。

タイ語で書かれたポートランドのガイドブック

先に述べたタイ歴の長い方が、若いタイ人が日本人の自分の持っている日本の情報に関心を示さないとおっしゃっていましたが、それも仕方ないと思います。
本屋に行っても、日本を紹介する書籍に紹介されているのが、最先端のサブカルチャーやストリート・ファッションだったり、マニアックなレストランやカフェだったりしますから。常に関心を持ってその分野の動向を追ってないと、その種の情報は入手できません。
現在、タイでは九州旅行がブームらしく、本屋で手に取ったガイドブックに、福岡市早良区西新の小さなパン屋さんロヂウラベーカリー紹介されてびっくりしました。たぶん福岡に住んでいる人でも、このパン屋さん知っている人はそう多くないはずです。私はこの辺に住んでたことがあった関係で、何度か再訪しているので、たまたま知っていますが。ただし、こうしたガイドブックに紹介されている独立系のローカル・セレクトショップは行ったことがないし、存在すら知りませんでした。
日本人同様に、タイ人もどんどん日本へ来て、新しい情報をアップデートしています。一部の層に限れば、もう、タイと日本の相手国に対する情報の流通量・流通速度は、変わらなくなっています。
こうした現象を見ると、タイにいる日本人に期待される役割も変わりつつあるのは当然とも言えます。
日系企業を誘致して、現地工場を建設して、雇用を創出するような現実的・実利的なことを別とすれば、日本には相当エッジの効いた才能や情報や商品が求められています。

KYUSHU IN LOVEというタイのガイドブック。同じシリーズの中で、台北、パリ、シンガポールなどがありました

福岡市早良区西新のロヂウラベーカリー紹介ページ

 こちらは、THE WONDER OF KYUSHUというタイ語のガイドブック
 行ったことない福岡のショップが掲載されています
 ラーメン、うどん、刺身等のフード情報も詳細です

冒頭に紹介した方は、タイにの動きについて行けなくなってきたので、次の本拠地としてミャンマーはどうかと考えているとおっしゃっていましたが、むつかしいのではないかと申し上げました。
ミャンマーで開業した個人や組織の1年以内に同国から離れる割合は、おそらく80%くらい、2年になると90%かそれ以上に達するのではないでしょうか。タイのように先端的な情報や技能が求められるわけではありませんが、マーケットそのものが小さい、あるいは存在しないケースが考えられます。
市場そのものを自ら立ち上げる覚悟と体力があるならいいですが、この方の場合、タイで長らく暮らされていて、タイでの経験が長いので、今からミャンマーでゼロから市場を創造するのはむつかしいのではないかと思いました。
逆に言えば、ミャンマーの面白さは多くの分野で自分がパイオニアになれる可能性が残されていることです。
多くの事業分野で、未整備・未成熟であるか存在しないため、そうした環境で何かをはじめれば、自分がその分野を創立した最初の人物になれます。
ミャンマーは経済合理性や実利を求めてやってくる国ではなく、ある種のロマンや開拓者精神の発露を求めてやってくる国だと最近特に感じます。
隣り合わせの東南アジアの国でも、社会や市場の成熟度がタイとミャンマーではまったく違うため、求められる能力や気質がずいぶん違うものです。

もう一つ感じたのは、タイと日本、ミャンマーと日本という二国間の関係だけで物事を見るのではなく、世界中の国の中の関係性や影響力の間で物事を判断することの重要性です。
バンコクでなぜ今サードウェーブ系カフェが流行しているのかは、先行するポートランドのムーブメントを知らないと理解できないでしょうし、なぜ日本にあるそうしたカフェを紹介したガイドブックがタイで出版されているのかの理由もわからないでしょう。
特にバンコクのような国際都市では、海外から人や情報や商品がふんだんに 流れ込んできているため、そうした視点が欠かせません。その流れについていけないと、やはり仕事は続けられないのでしょう。

タイのショップのガイドブック・コーナー。アムステルダムもバルセロナもミラノも東京も同列に比較、検討されています

次回、「ヤンゴン在住者が行くべきバンコクのスポット三選」に続きます。

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2 件のコメント:

  1. 「なるほどなぁと納得しました。」私も、同感です。
     読みごたえありました。何度も読み返して、いろいろ考えてみます。
     ミャンマーが民主化前は、ご存じかどうかわかりませんが、「後藤修身」さんのホームページには、ミャンマーに関する膨大な歴史とか風俗・紀行とかの情報が掲載されていました。なかなか足下に及ぶことはできませんでした。
     しかし、民主化後、求められる情報の中身が変わってきているのでしょうか。
     おっしゃるように、SNSによる情報のためか、福岡・天神の一部の屋台には、外国人の行列ができています。それをみて「何が楽しいのだろうか?」と思う自分が、時代とずれているのでしょう。最新のフャッション・グルメの情報が求められ、「歴史」とかの情報は、求められていないようです。
     いずれにせよ、いろいろ考えされられました。

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    1. ミャンマーは都市型の文化や娯楽が非常に少ないので、タイのように先端的な情報はまだ求められていません。ミャンマー好きに、日本人の年配者の方が多いのは、最新のことを知らなくても若者から軽く見られたり。相手にされないということがないから、という理由もあると思います。古くからの敬老精神も健在ですし。
      今後は環境の変化に伴い、ミャンマーでも最新の情報や先端的な技能が求められるようになるかもしれませんね。
      歴史のように過去の事象を頭で理解して楽しむより、ショッピングやグルメのように体感して、リアルタイムで楽しめる経験を求める人の方が多いのは、当然と言えば当然ですね。特に旅行者にとっては。

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