2015年7月8日水曜日

経済産業省のレポート「ミャンマー産業発展ビジョン」を読んだ

日本の経済産業省が作成した「ミャンマー産業発展ビジョン」を読みました。
7月3日に経済産業省のWebサイトに、レポートがPDFファイル形式で公開されています

このレポートは、2014年10月にカン・ゾー国家計画経済発展大臣と樋口建駐ミャンマー日本国特命全権大使を共同議長として開催された第5回日緬共同イニシアチブで、「持続的経済成長の観点から、ミャンマー産業発展に必要な施策詳細を明らかにすることに日本が協力すること」が歓迎されたことを受け、日本の分野専門家からなる「ミャンマー産業発展有識者会議」での議論を経て作成されています。
一通り読んでみましたが、包括的かつ詳細な部分まで踏み込んだ、有用な提言が数多く記載されています。

レポート中の「都市開発 と地方の好循環・シナジー」(P7)といったアイディアは、ちょうどいま読んでいるジェイン・ジェイコブズ 著「発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学」と認識を同じくしています。
農業を技術によって合理化・効率化すると農村部に余剰人口が生じるため、それを吸収する都市部の工業(製造業)の発展も同時に促進する必要があるという認識です。

また、同書で説かれている、地場製造業による自生的・自発的なイノベーション、地場企業間のインプロビゼーションが都市発展にとって不可欠という認識も、このレポートの中に読み取れます。
ジェイコブズは、資源国等が、その時々の最新鋭の工場を自国へ導入しても、地場産業による自発的なイノベーション・インプロビゼーションが発生しない限り、都市は発展しないと指摘しています。例として、イランやサウジアラビア等の産油国が、産業発展の成果物として工場や生産設備のみを輸入・移植しても、自生的・自発的な産業の高度化のプロセスは発生しなかったことがあげられています。都市が発展するためには、輸入品を地場の企業群が置き換える(レポートでは代替と表現)プロセスが不可欠なためです。
比較的に簡単に模倣できる輸入品を地場企業が生産(置き換え、または代替)し、地場市場へ供給する。そして、製品を改善し、ひいてはイノベーションを生む土壌を作ることが、都市の発展には必須であるとジェイコブズは説明しています。



個人的に評価したいのは、主にグローバル企業を対象としたミャンマーへの移植工場の誘致以外に、小規模な伝統工芸産業にも言及されていることです。
ミャンマーは多民族国家であり、各地には歴史や伝統文化根ざした洗練された意匠・技法が存在している。これらの中には、古来仏教文化を反映したものや、長年受け継がれた 土地固有の 伝統 、文化を生かしたものもある。こうした意匠や技法は、海外のハイエンド・マーケットニーズを掴むことで、富裕層向けの高級雑貨などとして輸出、産業発展に繋げられる可能性がある」(P12)。
 近所のミャンマーの少数民族による手織りの布を販売している店主も、スペインやフランスの業者が年に一回大量買付けにやって来ると話していましたが、おそらくオートクチュール(富裕層向け高級注文服)のために買付けされているのでしょう。
これに関しては、ミャンマーで生活している中で、自分がいつも感じていて、また何らかの形でトライしたい分野でもありますが、日本の官製のレポートにミャンマーの小規模な伝統工芸の保全や発展についてまで目配りされているのは、少々意外でした。
このレポートが包括的で、多くの調査を経て作成されている証左のひとつだと思います。

日本への利権誘導に通じるような記述は見うけられず、ニュートラルな視点で各論が展開されています。広い分野と中長期の発展を視野に収めた、完成度の高いレポートだと感じました。

敢えて難を言えば、文章表現が難渋過ぎるのと、分量が多過ぎる(68ページ)ことです。
文章表現が難渋なのは、役所の作る文書なので仕方ないかもしれませんが、ミャンマー人で文書に対する集中力と忍耐力を持つ人はまれなため(私は会ったことがありません)、最後まできちんと読んでもらえるかが心配です。
ビジネスでも、ミャンマー国内では口約束だけで進行するため、文書を作成したり、読み込んだりという習慣がありません。
契約書さえ読まないため、外国企業がミャンマーのカウンターパートナーと契約書を交わして安心していると、簡単に契約を不履行されて慌てるケースも多いです。この場合、ミャンマー側は、そもそも読んでないので不義理をしているという感覚はありません。「大切なことなら口答で言うべき」くらいの感覚です。
できれば、もう少し簡易平明な文体で、要点を絞り込んで半分くらいの分量にした方が、読んでもらえる可能性が上がると思いました。

また、作成者の責任ではまったくありませんが、ミャンマーには組織で情報を共有して議論するという文化がありません。
今回作成したレポートも、うまく活用される仕組みを作らないと、大臣のデスクに置かれてそれっきりということもあり得ます。
これだけ広い分野にまたがり、深く分析されたレポートを作成するには、調査と執筆にかなりの時間とマンパワーを要したはずです。費やした労力は報われて欲しいので、ミャンマー側が今回のレポートを有効に活用するための、事後の施策も用意していただきたいところです。

そのために、ミャンマーと日本の関係者がこのレポートの各項の提案事項について、今後、どのように具体的に展開させるかを議論する場を設けても良いのではないでしょうか。もちろん会議の参加者は、事前にレポートを読んでくるのが前提です。
今後のミャンマーへの業務連絡は、今回のレポートと照合させるようにしても良いと思います(例:「本件については、2015年7月3日提出『ミャンマー産業発展ビジョン』X章X項関連事案につき参照のこと」)。

ミャンマーでは、こちらがいくら誠意を持ってボール投げても、しっかり受け取って、投げ返してくれるとは限らないため(特にペーパーワークでは)、何らかの仕組み作りが必要かと思います。

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