2021年12月27日月曜日

【小説】『ニルヴァーナ・オーバードライブ』10

10

 翌朝、窓から差し込む日射しで目を覚ました。外を見ると燕脂色の僧衣に身を包んだ托鉢僧達が近隣の民家を回っていた。在家の住民達が僧が抱えた鉢の中に米を注いでいる。ミャンマーで毎朝繰り返されている光景だ。
 バスルームで洗顔して外を散策することにした。ホステルのある路地から大通りに出ると向かいにカンドージー湖が見える。通りを横切って、湖のある柵内の敷地に入った。敷地内には湖を囲んで公園やレストランが点在している。
 湖上に渡された木製の遊歩道を進むうちに、賑わっている場所があるのを見つけた。そちらを目指して歩くと〈Yangon Farmers Market〉と入口に垂れ幕が掛かった広場に行き着いた。入ってみると三十あまりのテントが設置され、テント毎に様々な野菜や果物が販売されていた。見たこともない南国の果物を並べられたテントもある。フレッシュジュース、ジャム、コーヒー豆などの加工した食品も売られている。この場所で定期的に開かれている朝市のようだ。看板やパッケージに、オーガニックであること、地場産であることを謳っているのが目立った。訪れている客は、外国人とミャンマー人が半々だった。民生移管後に外国人居住者が増えて、こうしたオーガニック食品の需要も生まれているのだろう。ひと通りテントを眺めて、来た道を引き返した。
 
 宿に戻ると、一階のカフェにビル・ブラックがいた。
「おはよう、どこかに行ってたの?」そう言って、テーブルの上のMacBookから顔を上げてこちらを見た。
「湖の周りを散歩してた。朝市をやってたよ」と言うと、「ああ、あれは毎週末やってるんだ」と彼は答えた。 
 私も彼の近くのテーブル席に座った。「オーガニックとかローカル・メイドとかを強調した店が多かったけど、そういうのがこちらでは盛んなの?」と訊いてみた。
「ここに住む外国人と一部の裕福なミャンマー人相手の商売だね。まあ、うちのカフェの客層もそうなんだけど」
「ここを始めてどれくらい経つの?」と私は尋ねた。
「一年半くらいだね。その前はここの1LOで働いてたんだけど」
「ミャンマーは住んで長いの?」
「八年くらいになるね。イギリスの大学でビルマ語を学んだから、ミャンマーに来るのは当然の成り行きだった。君は観光に来たの?」
「ミャンマーは三回目なんだ。東南アジアの現代美術のリサーチのために来た。日本でアート関係のビジネスをしている」近くにいたミャンマー人のスタッフにスムージー・ボウルとカプチーノを頼んだ。
「共同経営者のプーがギャラリーをやってるからよければ紹介するよ。彼女は今シンガポールに行ってるけど、今週戻ってくる。たしか君の滞在は一週間だったよね?」
「ここには一週間泊まる予定だ。それから瞑想センターに行くつもりなんだけど。ギャラリーをやっている君の共同経営者に会えると嬉しいな。いろんなツテがあった方がいいから」
「戻ってきたら教えるよ。彼女もミャンマーにいるときは、だいたいここにいるから」
 スムージー・ボウルとカプチーノが運ばれてきた。スムージーにはスライスしたマンゴーとバナナとキウイがトッピングされていた。スプーンですくって口に含むとココナッツ・ミルクと果物の甘い香りで口内が満たされた。「ありがとう。瞑想センターに行くのは君の共同経営者に会ってからにするよ」と私は答えた。

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