2020年8月6日木曜日

東南アジア的な視点から、北九州市の活性化について考えた(2)

前回の投稿では、北九州市の気風やそれが形成された経緯について述べました。 製鉄業を中心とする重工業産業が、この街から去って久しいですが、そうした産業が隆盛だった時代の痕跡を未だに街を歩けば目にします。

たとえば、24時間営業のうどんを中心とする定食屋の「資さんうどん」や、こちらも24時間営業の海産居酒屋「磯丸水産」。



いずれも夜勤明けの工員達のために終日営業としていたのでしょうが、今も客層を変えながら同じ営業形態で続けているのは驚きです。工員向けの店だっただけあって、やたらご飯の盛りが多い。最初は、頼んだものが出てきた時に、「あれ、大盛頼んだっけ?」と途惑ったものです。
日本に全国チェーンではない、こうした地場の24時間営業の飲食店や居酒屋がある場所は、今ではそうないのではないでしょうか。

その一方で、代官山とか福岡の大名にありそうな、コーヒースタンドを備えたセレクトショップが出来ていたりします。


そうはいっても、製造業が去った後の主力産業が見つかっていない都市なので(人口減と高齢化の予測値は政令指定都市の中で一位)、街の中心地でも空きテナントが目立ちます。


製造業の撤退による人口減や高齢化、そして生産年齢人口の減少による活気のなさなどは、80年代からずっと続いてきた傾向なので、特に驚きはありません。
しかし、今回、久し振りに北九州で暮らしてみて気がついたのは、以前には見かけなかったタイプの個性的なお店や施設が増えてきていることです。

こちらは、古い長屋をリノベーションしたcomichiかわらぐちというプロジェクトです。


テナントの一つにアウトドアセレクトショップがありました。今年の6月1日に新しく入ったテナントです。



カウンターもあって飲食ができる作りになっています。店主にお話を聞いたところ、「北九州には、パタゴニアもノースフェイスもないので、自分でアウトドアショップを作りたかった。街のコミュニティ・プレイスとして機能させたい」ということです。


テナントの中には角打ちもあって、私が行った時に、ちょうど昼飲みを終えて出てきた労務者風の酩酊した初老の男性を見かけました。こうしたお店があるのも北九州らしいです。
北九州には昼飲みができるお店が多く、休日は昼からはしご酒をして、早い時間に帰って寝て、翌日の出勤に備えるという文化があるようです。これも工場労働者が沢山いた時代の名残りなのでしょう。


この物件のリノベーションを手掛けているのは、北九州家守舎という、北九州市内の遊休不動産解消の為、リノベーションを通じた街の再生、事業の創出、人材の育成をミッションとする企業体です。この物件の他にも、北九州でのリノベーション・プロジェクトを手掛けています。

これらのプロジェクトは、通常の建築案件のように、設計して、施行した完成物件を引き渡して終わるのではなく、 オーナー・設計者・テナントの3者でリノベーション費用を分担して、設計者(北九州家守舎)はオーナーから一括して借りた物件を各テナントへサブリースして、テナントからもらう賃料とオーナーに支払う賃料の差額から、建築費用を回収するという仕組みで運営されています。設計した側がリスクと責任を取る代わりに、きちんとテナントが入れば継続的に利益が得られるという仕組みです。
遊休不動産を、地場の個人事業主やクリエイターの活動の場となるようリノベーションし、物件のオーナー、設計者・仲介者(北九州家守舎)、個人事業主・クリエイター3者がそれぞれ利益を上げ、魅力的な場作りによって地域を活性化する試みです。
中央の大手資本が店舗が入居することは、オーナーにとっては魅力的ですが、そうした大手資本は地域の活性化や共同体への寄与には無関心なため、会社の求める最低限の収益性を見込めなければ出店しないし、仮に出店しても当初の収益予想が外れればすぐに撤退します。現に小倉駅前の大型商業施設は、伊勢丹が撤退した後テナントが埋まらず、建物の三分の二程度が空きテナントとなっています。人口の減少が続く北九州市のような立地では、小売業などの業種では、経済合理性だけで事業を継続するのは困難です。

北九州家守舎の存在と活動は、この会社の代表取締役の一人でもある嶋田洋平氏の著書を読んで知りました。
人口が継続的に減少して、遊休不動産が増加し続けている環境では、新築の物件を建てる社会的な意義は失われており、むしろ効果的な既存物件のリノベーションを施すことが、地域の発展、地場資本によるビジネスの活性化、地元で創業する人材の育成などに寄与するという、「建てない建築家」嶋田氏の主張と実践が紹介されています。
少子高齢化と生産年齢人口減少が進む日本の中で、処方箋の一つとなる、示唆に富む内容の本なので、そうした問題に興味のある方にはお勧めです。


ただし、いくら理念や志が素晴らしくても、現実的に実践して、運営していくのはかなり難しそうです。
複数の物件を見ていて感じたのですが、テナントのクオリティを保って、物件の価値を維持するのが難しい。最初は個性的な地場のクリエイターをテナントとして誘致して、物件の価値を向上させ、地域を刺激することができても、そのテナントが出た後に同等のクオリティの新規テナントで埋めることがなかなかできないように見えました。競争力のあるテナントは、出店してある程度目途が立つと、ネット通販に切り替えたり、東京へ進出してしまうことがあるようです。
地方だとプレイヤーの層が薄いので、個性的で魅力的なテナントとなるクリエイターや個人事業主を次々と見つけるのは簡単ではありません。かといって、収益性を重視して、一定のクオリティに達していないテナントを入居させると物件の魅力は下がるし、地域の活性化にも繋がりにくい。
そもそも生産年齢人口が縮小の一途を辿っている北九州市のような都市で、新たな候補が次々と育ってくるという予想も立てにくい。

だったら、生産年齢人口の相対的な比率が日本よりも高く、絶対数も多い東南アジアからクリエイターや個人事業主をこのようなリノベーション物件に誘致してはどうだろうというのが、本稿の趣旨です。
そのアイディアの詳細については、次回の投稿に書くことにします。

北九州市、面白そうだと思ったらクリック!
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
にほんブログ村 海外生活ブログ ミャンマー情報へ

0 件のコメント:

コメントを投稿