2019年5月15日水曜日

なぜ、7年前に起こったミャンマー・ブームは不発に終わったのか、エストニアの例から考えた

先日、『エストニアで「日本人お断り」のスタートアップが増えた理由』という記事を読みました。

この記事によると、連日のように日本の企業からエストニアへ視察団がやってくるものの、「実際に事業を展開している日本企業はごくわずかで、日本企業の大半は『表敬訪問』を目的にエストニアに訪れる。そんな日本企業の振る舞いが、現地でひんしゅくを買っている」そうです。

「彼ら(注:エストニア人)が訪問客と会う理由は、その先にビジネスの機会を見出しているからに過ぎない。ただでさえ労働力が不足している国である。観光ガイドをしているほど、彼らに時間の余裕などない。家族を大切にする分、残業は滅多にしないエストニア人にとっては尚更だ」という現地の事情に配慮せずに、「『視察』という形だけの訪問が繰り返され、何もビジネスが生み出されなかった結果、日本企業に対する不信感が高まって」いるとのこと。

筆者は、「日本企業にありがちな「とりあえず会いましょう」的な表敬訪問ほど、迷惑なものはないのだ」と断定しています。

ミャンマー在住が6年を越える日本人には、これは既視感のある光景です。
6、7年前のミャンマーも日系企業からの視察ラッシュでした。
2011年に政府が軍政から民政へ移管して、ほぼ鎖国状態だった国が開かれた時、経済メディアが「ラスト・フロンティア」 、「アジアの甘いケーキの最後の一切れ(The last piece of a sweet cake in Asia)」などと喧伝し、日本人を含む多くの外国人がおっとり刀でこの国を訪れました。
日本からは、連日のように、「XX経済団体連合会」、「XX経済同友会」(XXは地名)といった団体のメンバーが、ミャンマー商工会議所を訪れていました。

しかしながら、こうした視察団を派遣した企業で、実際にミャンマーで実際に事業を展開した企業の数は、そう多くはないようです。
JETROのサイトで調べたところ、ミャンマー日本人商工会議所メンバー数は、376社でした(2018年5月末時点)。
2012年から2015年のミャンマー・バブルの間に、ミャンマーを訪れた日系企業に属する視察者の数は、ミャンマー日本人商工会議所の現メンバー数の数十倍のはずです(正確な統計はなく、個人の肌感覚ですが)。

前掲の記事では、筆者は、エストニアに来る前にまずすべきこととして、下記の二点を挙げています。

1. 目的意識を明確にすること
〜「来ること」そのものが目的化しない。その先のビジョンをまったく描くこと。自社のどんな課題にアプローチしたいのか、現地企業にどのようなことを期待しているのか、最低限事前に明確にすべき。
2. 現地企業に提供できる価値を明確にすること
〜 自分たちと会うことによって、彼らにどんなメ リットがあるのか。その点を明確にする。

たしかに、6、7年前の日系企業の視察ラッシュも、明確な目的や戦略を持って臨んでミャンマーにやってきた人々は稀少でした。

もう一つ腑に落ちた記述があったので、紹介します。
日本とエストニアの環境を比べてみると、人口規模ではエストニアの100倍であるし、国としての歴史の長さも、文化的な背景も大きく異なる。つまりエストニアの方法論をそのまま適用したところで失敗することは目に見えているのだ。エストニアのe-ID制度を参考にしたものの、普及率12.8%に留まっているマイナンバー制度がその代表例と言えるだろう
ミャンマーにやって来る日系企業は、エストニアのケースとは逆に、日本の既存事業をミャンマーでの展開を図るケースが多いですが、その際も当然、歴史も文化背景も生活様式も可処分所得も違うので、そのまま日本の財やサービスをミャンマーに持ち込んだところで、当然、うまくいきません。
あたりまえですが、現地の値頃感、文化、嗜好に合わせる必要があります。
現にミャンマーに進出した外資系企業の中でも、比較的存在感のある、MPT(携帯電話キャリアKDDIが出資)、エースコック(即席麺)、キリンビバレッジ(ミャンマービールを買収)といった企業は、自社のサービスや商品を現地の所得水準や嗜好に合わせて、ローカライズしています。

もちろん、BtoCだけがミャンマーでのビジネスモデルではありませんが、少なくともミャンマーの市場で何らかの営利活動を営むなら、この視点は欠かせません。
むろん、オフショア開発やファースト・ファッション向けの縫製工場等では、ミャンマーは生産・製造過程を担うのみで、ミャンマーを消費市場としては考慮していません。
また、日系企業向けのコンサルティング会社、法律・会計事務所のように日系企業のみを対象としている企業や、日本人駐在員向けの不動産サービス業なども少なくありません。しかし、話をわかりやすくするため、ここでは進出する企業が、ミャンマーの市場を対象にしていることを前提とします。

6、7年前の日系企業のミャンマー視察ラッシュの時に感じたのは(今でも散見しますが)、日本は市場が縮小している、あるいは成長が見込めない、もしくは過当競争で利幅が薄いので、日本での自社事業を、そのままミャンマーで展開するという無理筋を通そうとしていたケースが多かったです。
ミャンマー市場に向けて、競争的な価格を設定したり、文化・習慣・嗜好の違いを勘案してローカライズすることを考えていた人は、ほとんどいなかったように記憶しています。
特に中小企業の人たちは、大手(元請け)企業の発注に依存する下請け体質で、市場特性を分析して、現地向けにローカライズした独自の商品で新たな市場を創造する、市場分析力・商品企画力・開発能力・マーケティング力などを備えていないように見受けられました。
簡単に言ってしまうと、ミャンマーに来てなお、「日本ガー」とか「日本人ガー」とか言っている人が多かった。
繰り返しますが、ミャンマーと日本では、歴史・文化・習慣が大きく異なるので、日本の感覚で物事を捉えても意味がありません。
市場特性をよく考えずに、日本からミャンマーへ進出した日本食レストランが、この6、7年の間にどういう結果を迎えたかを見れば、それは明らかです。
コンサルティング・法務・会計業務などのクライアントから定額収入がある業種なら、顧客が日系企業だけでも成立していますが(新しい市場を創るのではなく、限られたパイを同国人同士で取り合うので、業種毎に成り立つ企業数の上限は決まってますが)、レストランのように収益がスポット単位の業種だと、ミャンマーの日本人市場のパイそのものが小さいため、現地の嗜好、食文化、可処分所得を度外視して作られたお店のほとんどが2、3年以内に撤退しています。
平均的な所得のミャンマー人が入れない価格帯のお店を作るなら、日本人だけではなく、欧米人などの在ミャンマー外国人全体を取り込む必要がありますが、きちんと意味が通る英語表記のメニューさえ作っていない日本食レストランが多かった。

まあ、ここ5年ほどミャンマーで日本食を食べたこともないし、日系企業に勤務している人とも、ほとんど接点がないので、いささか情報が古いかもしれません。
そう思って、何か新しい情報がないかと、ググったところ 『乙武洋匡・世界へ行く|ミャンマーの純粋さに触れて考えたこと』という、去年の2月に書かれた記事を見つけました。

離陸して4時間ほど経った頃だっただろうか。うとうとしていた私の耳に、うっすらと怒気を感じさせる機内アナウンスが聞こえてきた。

「ただいま、化粧室における喫煙が確認されました。機内での喫煙は禁止されており──」

おいおい、マジかよ。いつの時代の話だよ。そういえば私の前の座席の年配男性のもとには部下らしき男性スタッフが訪れ、入国審査カードの書き方を懇切丁寧 に説明していた。それでも埒が明かなかったのか、最後には上司からカードを預かり、すべて記入した上で再び届けにきていた。

そういえば私のとなりの年配男性は、まるで修学旅行のしおりのような何ページにもわたるカラフルな出張中の行程表をパラパラとめくっていた。おそらくGoogleカレンダーなど使いこなせない上司のために、部下が膨大な時間を費やして作成したものだろう。

機内での喫煙。入国審査カードの代筆。小冊子のような出張行程表。ヤンゴン行きの機内には、とにかく“昭和”が満ちていた。
これを読む限り、やっぱり、6、7年前と変わっていない気がする。
東南アジアだと、欧米圏と違って古いままの感覚(昭和のオヤジ的感性)でも大丈夫だと勘違いして来る日本人が多いようです。ミャンマーで、「日本ガー」「日本人ガー」言っている日本人はたくさんいますが、例えば、アメリカ、イギリス、ドイツでは、そんなにいないのではないでしょうか。
東南アジアでも、お隣タイのバンコクだと、当地の文化やセンスの向上が著しいので、古いタイプの日本のオッサンがどんどん駆逐されている感があります。
前回、バンコクへ行ったときは、若者に人気のあるクールな場所は、流行に敏感なお洒落なタイ人の若者と富裕そうな欧米人客で賑わっていて、こうした場所では日本人はほとんど見かけませんでした。一方、日本の郊外の住宅地の駅前にありそうな古いタイプの居酒屋(別に嫌いではないですが)では、サラリーマン風の中高年の日本人男性の一人客がそれぞれ別のテーブルに分かれて点在していて、なんだか侘しげでうらぶれて見えたのが、クールな場所の賑わいと華やかさとの対照をなしていました。

ミャンマーも「昭和な感覚のオッサン」では、すでについて行けない場所になりつつあります。
ミャンマーに来る日本人も、必要最小限の英語力と、ITリテラシーを持っているべきです。
ミャンマー人の大卒英語力は、話す・聴くに関しては、平均的な日本の大卒より上です。そのため、英語圏の人々とも日本人よりも臆さずに接します。よって、ミャンマー人英語話者のコミュニティと在ミャンマー外国人コミュニティは、ビジネスやエンターテイメントの情報を共有しています。
ミャンマーで、「日本ガー」「日本人ガー」と日本語圏のコミュニティ内で言い合っていても、同質的なコミュニティ内では、コミュニティ外の異質な情報が入ってきません(構成員の活動範囲や情報源が同じため)。その上、情報が日本語圏にしか伝播しないため、外部のコミュニティ(ミャンマー人コミュニティや在ミャンマー外国人コミュニティ)への情報発信力もゼロに等しい。
ITに関しては、ミャンマーでは、PCでのインターネット接続を飛び越えて、2014年の携帯キャリアの自由化以降、いきなりスマートフォンでネットにアクセスするようになったので、アプリに関しては年配者でも使いこなせる場合が多い。
少なくとも、入国審査カードを読んで、記入する程度の英語力(なのか?)と、Google Calendarを使える(部下に手製の出張行程表を作成させるような、生産性の低い、無用の仕事を増やさない)くらいのITリテラシー(と呼ぶべきか?)は、最低限あってしかるべきでしょう。 さもないと、今後も日系企業や日本人のミャンマーにおけるプレゼンスの向上は望めません。

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