先日、タイへ一時出国した時に、バンコクの古本屋で雑誌『ミュージック・マガジン』の2014年4月号を見つけました。
この号の特集は「私の洋楽この一枚」です。内容が面白そうだったのと、20バーツと値段が安かったこともあり購入しました。
現役のミュージシャンが、それぞれ人生に影響を与えたアルバムを選んでいますが、音楽を浴びるように聴いていた10代、20代の頃の愛聴盤も何枚か選ばれていて、興味深く読みました。
スクリッティ・ポリッティの2nd。これは大学生の時に聴きまくった。プロデューサーは、アリサ・フランクリンなどのブラックミュージック畑で良い仕事をしたことで有名なアリフ・マーティン。
高校生の頃聴きまくった、ニューヨーク・パンクを代表するテレヴィジョンの1st
結構前に、「若者の洋楽離れ」という記事をウェッブで読んだことがありますが、1960年代前半から1980年後半まで、「洋楽」は日本の一部のティーンエイジャーにとって独自のポジションを占めていました。
思春期の訪れとともに自我の目覚めを迎えると、多くの場合、自分の感覚や美意識と、周囲のそれとに齟齬や睽隔があることに自覚的になります。
そうしたギャップを埋めたり、違った価値観を求めた先に辿り着くものとして、過去には「洋楽」がありました。
特に、私が通っていた地方の中途半端な進学校なんかは、無駄に校風が抑圧的なので、多感なティーンエイジャーにとって、無茶苦茶ストレスフルな環境で過ごすことを強いられました。そうした環境に耐性の高い生徒もいますが、20%くらいの割合で、それが受容できない層が発生します。
その20%のうちの15%は、ヤンキー方向に流れます。盗んだバイクで走り出したり、近所の女子高生妊娠させたりする、元気の良い、分かりやすい体育会系不良の皆さんですね。
そして、文系度が高かったり、体力がないためそういうフィジカルな方向性に向かえない層の残り5%の一定数が、「洋楽」に流れます。言うまでもなく、私はこのカテゴリーに入ります。
私が高校生だった頃は、パンク/ニューウェーヴ全盛期だったので、同時代のそうした主にイギリスで活動するロックバンドを聴き倒して、日々のストレスをやり過ごしていました。今思えば、世界やそれを取り巻く価値観は多様で、自分が今押し付けられている一元的な価値観とは異なる価値基準が、自分が今過ごしている場所とは別に、多種多様に存在しているという拠り所を、そうした英国のバンドの音楽の中に求めていたのだと思います。
世界の多様性、多義性を確認する装置として、同時代の英国のロックバンドが機能していたわけですね。当時は、ジョン・ライドンとかジョー・ストラマーとかポール・ウェーラーとか、キャラの立ったロックスターが存在したので、ある意味、いろんな幻想を仮託することができました。
今でも社会や世間が押し付ける価値観に、齟齬や違和感を感じる若者は当然いるでしょうが、それを対象化したり相対化する道具として「洋楽」は有効ではなくなったのでしょう。
そうした個人的なバックグラウンドもあり、ミャンマーで洋楽はどのように受容されているのかに興味があります。ヤンゴンのスーパーマーケットでCDの海賊版の棚を定点観測していると一定の傾向が見て取れます。
ミャンマーでポピュラーな洋楽は以下の三つのカテゴリーに分類できます。
ひとつは、歌もの。ビヨンセとかレディー・ガガとかアデルとかですね。男性だとジャスティン・ビーバーとか。
次にヒップホップ。ジェイZとかドレークとかカニエ・ウエストとか。
写真はありませんが、三つ目は、メロディがキャッチーなロックバンド。時代はバラバラですが、イーグルスとかクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルとかマルーン5とか。
そしてミャンマーで不動の人気を誇るロッカーは、この人。ロッド・スチュアートです。
「セイリング」とか「This old heart of mine」とか彼がカヴァーした名曲の多くにミャンマー語ヴァージョンがあります。
当然ながら、スミスとかジョイ・ディヴィジョンのような思春期拗らせまくった内省的な文系ロックは、ミャンマーではまったく知られていません。
ミャンマーでは、というかタイにいる時も感じるので、東南アジア全域の傾向かと思いますが、思春期に社会や周りの環境や価値観との齟齬に悩むことがあまりないため、こうした観念的で、文学的で、青臭い表現は、東南アジアでは受容されません。
日本に話を戻すと、一昨年くらいから労働問題や貧困問題の論客として、一躍名をあげたブレディみかこさんの文章を読むと、私と世代が近く、ティーンエイジャーの頃聴いていた音楽がほぼ同じだなと感じます。もっとも、福岡市で東大合格率No.1の高校に通って、卒業後、何のツテも無いロンドンに単身向かう人とは、地頭の良さとか行動力の点で雲泥の差がありますが。
最後に、ミャンマー在住外国人が聴くべき洋楽を選んでみました。
60年代後半から70年代前半に活動したイギリス人SSW、Nick Drakeです。
私もミャンマーに来てから知りましたが、この人はビルマ生まれです。生前は無名でしたが、死後、再評価の機運が高まり、今では非常に高く評価されているミュージシャンです。ピンク・フロイド脱退した後のシド・バレットのソロアルバムに通じる、仄暗いポップさに中毒性があります。
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