2021年4月28日水曜日

そろそろミャンマーの革命の話をしよう(2)

前稿の続きです。
前稿では、今回起きたミャンマー国軍によるクーデターは、ミャンマーの政治経済システムに内在する力学が剥き出しの形で露呈しただけで、偶発的・突発的なものではないことを指摘しました。
本稿では、こうした政治経済システムの不安定性を内在する民族的な気質について深堀りしてみたいと考えます。

ここで援用するのが、人類学者エマニュエル・トッドの仮説です。
トッドは、各地域の家族制度が、自由主義・共産主義・社会主義といった イデオロギー(宗教もそこに含まれる)を特徴づけると論じました。
つまり、下部構造(家族制度)が上部構造(イデオロギー)を規定するという分析です。
トッドは家族構造の類型を「権威主義的家族」、「平等主義核家族」、「絶対核家族」、「外婚制共同体家族」、「内婚性共同体家族」、「非対称共同体家族」、「アノミー 的家族」の7つに分類しました。

上の7つの分類から4つを選んで、以下に説明します。
分析は、主に家族制度が平等か不平等か、親子関係が権威主義か平等かの二つの軸によってなされます。

たとえば、日本がカテゴライズされる「権威主義的家族」は、 子どものうち一人が跡取りとなり、全ての遺産を相続する家族制度です。こうした家族形態は、親子関係が権威主義的であり、兄弟関係が不平等主義的といった特徴を持ちます。戦前日本のイエ制度や、江戸時代以来続く、暖簾を守るといった家業に基づく長期的・継続的な商人道のあり方は、こうした家族制度に由来している可能性があります。

イングランド,オランダ,デ ンマークなどの北ヨーロッパが属する「絶対核家族」の家族構造は,子どもたちは独立していきますが,遺産の相続は親の遺言・信託によって決定されます。親 子関係は自由主義的であり、兄弟関係は平等への無関心によって特徴付けられます。資本主義が誕生した国家が属するカテゴリーですが、株式や契約等の証書を根拠とした社会システムは、こうした家族制度のあり方を、家族の外部(社会)に敷衍した結果という見方もできます。

「外婚制共同体家族」は、ロシア、中 国、ヴェトナム、旧ユーゴ地域等の共産主義化した国に見られる家族制度です。子どもは成人・結婚後も親と同居し続けるため,家族を持つ兄弟同士が、家父長の下に暮らす大きな家族形態を取ります。遺産は平等に 分配され,権威主義的な親子関係と平等主義的な兄弟関係となります。
このような家族制度を持つ地域・国家が共産主義化したことは、イデオロギー・社会システム(上部構造)という擬制(フィクション)は、家族制度という民族・地域に自然発生した、本来的・根源的な制度(下部構造)の上に立脚するというトッドの仮説を強く補強する事実です。

さて、ミャンマーは、タイ・カンボジア・ラオス・マレーシア・フィリピ ンなどの東南アジア諸地域が属する「アノミー的家族」に分類されています。この形態は、親子関係と兄弟関係 が共に不安定なため、人々は共同体主義と個人主義の間の緊張状態の中で生きることを強いられます。これは政情不安にも繋がり、トッドは、ポル・ポト率いるクメール=ルージュによるジェノサイドは、こうした緊張状態が現象化した事例として指摘しています。カンボジアは、対立野党の解体などフンセンによる事実上の独裁が現在も続いており、いまなお混乱した政情です。そして、タイでは、周期的に軍事クーデターが起きています。
トッドの説に従うなら、現在、起きているミャンマー国軍による弾圧もこうした家族制度に起因していることになります。
個人的に不思議なのは、タイで軍事クーデターが起きても、経済活動や為替への影響が極めて軽微なのに対し、ミャンマーでは毎回災厄レベルのダメージを被ることです。
タイにあってミャンマーにないものー交通・上下水道・電気等の社会的インフラと教育・医療等の制度資本ーの差が、軍事クーデターの社会に与える深刻さの軽重に繋がっているのではないかと推測していますが、明快な結論はまだ出せていません。
世界の成長エンジンとして期待されてきた東南アジア諸国ですが、文化人類学的な見地では、この地域には、社会の不安定性が構造的にビルトインされていることに、投資を考える際には意識的になるべきでしょう。

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